『働く』 休職と復職

その5:復職後の注意点

光曦 苏によるPixabayからの画像(海辺に立つ女性の画像)

 

仕事を休もうかと考えている方/既に休まれている方/職場に戻りたい方/職場に戻られた方から相談を受けることがあります。それぞれ置かれている状況は異なり、悩んでおられる内容も異なるのですが、基本的な事項についてまとめてみました。

 

 


その5:復職後の注意点

職場に戻ることができたあなた。これまで本当に頑張ってこられたと思います。ご自身でも「復職できて本当に良かった」と思われていることでしょう。その一方で、「今後きちんとやっていけるかな?復職を失敗したらどうしよう」という不安感が少しずつ強くなる時も。

 

今回のコラムは、その不安感に対処できるよう、一緒に考えていきましょう。

 

Rudy and Peter SkitteriansによるPixabayからの画像(ブランコと女の子の写真)

 「3の倍数」に合わせた見通しを持つ 

「休んで迷惑をかけたのだから頑張って働くぞ!」と思う気持ちは大切です。しかし、病気(鬱や適応障害など)からシッカリ立ち直って、きちんと働いていくためには、見通しを持つことが必要です。

 

見通しについて詳しく説明する前に、イメージしやすいよう、あなたが小さな頃にブランコを漕(こ)いだ体験を思い出してみて下さい・・・小さいあなたが、ブランコによく乗る場所はどこだったでしょうか?どんなブランコでしたか?・・・ブランコの椅子に座って、しっかり両手でヒモを持ち、漕(こ)ぎはじめる・・・最初のうちは、がむしゃらにやってみるけれど、うまくいかず、大人から背中を幾度も押してもらう必要があったり・・・

ちなみに、最初の頃、うまく漕(こ)げなかった理由は、ブランコが振り子だからです。振り子はヒモの長さが変わらなければ、振れ幅は一定です。我々は無意識のうちに、ブランコの動きに合わせて足をのばしたり曲げたりすることで、ヒモの長さを変えて、振り子の振れ幅を次第に大きくし、高く漕(こ)げるようになっていくのです。

 

ということで、ブランコは、いきなり最初から高く漕(こ)ぐことはできません。自身の足の曲げ伸ばしに応じて、徐々に高い位置へと達するのです。同様に、復職後すぐから高いレベルを目指すのは難しいと言えます。

 

そこを分かっておかないと、復職あるあるの話ですが、周囲の人間からは『復職して、この時期なら、きちんとやれているな』とプラスに判断されているのにも関わらず、自分では『全く自分はできてない』とマイナス判断してダメ出しを繰り返してしまうことがあります。この自分へのダメ出しが続くと、落ち込みが強くなり、再度休職になってしまうケースもあるため要注意。

 

再休職を防ぐためには、復職後の時期に応じた段階的な目標設定をし、振り返りをしていくことが必要です。セラピストは大ざっぱに復職後の時期を3の倍数(3日・30日・3ヶ月・6ヶ月・12ヶ月・18ヶ月・3年)に分けて、時期に応じた見通しを伝えるようにしています。

 

donschenckによるPixabayからの画像(毛糸玉の写真)

 復職3日 

目標その1:周囲へ挨拶

目標その2:とにかく出勤する

 

復職時の挨拶を、事前に考えておきましょう。ことこまかに事情を説明する必要はありませんが、休職中に周囲へ負担をかけてしまったことへのお詫びと共に、感謝の気持ちを添えると好印象です。そして、復職はゴールではなく始まりなのですから、必要に応じてフォローしてほしいことを伝えるとよいでしょう。こういった復職時の挨拶をすることで、周りの理解を得て働きやすくなります。

 

また、復職してすぐは、通うだけで精一杯です。そのため、復職日は月曜日ではなく、週の半ばに設定してもらえないか、3日くらい通ったら休めるようにできないか、前もって相談しておくとよいでしょう。

 

Julia PotapovaによるPixabayからの画像(毛糸を編む写真)

 

 復職30日(1ヶ月) 

目標その1:とにかく出勤を続ける

目標その2:休んだ時は、自らを立て直すことだけを考える

 

復職して当分の間は、疲労がたまりやすい時期です。復職あるあるの話ですが、復職前に運動をしてリハビリを頑張っていた方が「これだけ体力があれば何とかやっていけるはず、と思っていたのに、復職したらまだまだでした。仕事して家に帰ったらバタンキューです」と苦笑いされることは本当に多いです。

 

こういったことが生じやすい原因として、久しぶりの仕事で慣れていないということがあります。以前と同じ内容の仕事であったとしても、判断にとまどったり、頭が白くなったりすることはよくあります。また、周囲があなたの健康を気遣って、通常よりも簡単な仕事を任せたり、場合によっては雑用かな?と思うような仕事を任せたりすることも。これらは、あなたに対する配慮なのですが、「自分は必要とされていない」とショックを受けたり、肩身の狭さで居心地が悪くなって、心身の疲労がたまりやすくなることはよくあります。

 

疲労がたまる中で、焦ったり、慌てる気持ちが出てくるでしょうが、とにかく続けて出勤することが大切です。『太く短く』ではなく、『細く長く』出勤を続けることで、心身の体力がつき、状況は1歩1歩改善していきます。ですから、帰宅してすぐにバタンキューは、とても良いことです。1日の疲れを取ることを最優先しましょう。

 

ただし、どうしても休む必要が出てきた場合は、自分を責めたり諦めるのではなく、自らを立て直すことだけを考えます。復職後、数日休んで自分を立て直す方はたくさんおられます。というのも、この時期は出勤することだけでいっぱいいっぱいになって、休職中に気を付けてきた生活リズムが崩れてしまう方が多いからです。休んだ時は、睡眠時間や食事などを整えることで、心身の体調不良は下げ止まります。その状態でしばらくしのげば、また徐々に回復してきます。自分が調子を取り戻すきっかけを、みつけていきましょう。

 

Monika BaechlerによるPixabayからの画像(編みかけの写真)

 復職3ヶ月 

目標その1:元の自分を目指さない

目標その2:仕事上での小さな達成感を大切に

                      

復職すぐは1日を必死にやり過ごしていただけだったかもしれませんが、少しずつ仕事量が増えると共に、徐々に周りが見え始めてきます。仕事が少しずつ増えてきたことに自信を持ったり、周りが見える=こころの余裕となればいいのですが、なぜか周りと自分とを比較して焦りや落ち込みが出てきやすくなる時期です。そのせいか、セラピストの元にも「もっと頑張らないといけないのに踏ん張れない」「周囲から置いて行かれている」「この調子で、前の自分に戻れるのか」などの相談が多く寄せられます。

 

こういう時こそ、深呼吸。そして「元の自分に戻らなくても良い」と言ってあげましょう。

こころの病気(鬱や適応障害など)になった方は「病気になる前の自分を取り戻したい」と頻繁に口に出されます。その気持ちは、人としては痛いほど分かります。しかし、こころの支援をするセラピストの立場からすると、その気持ちは非常に危険だと言わざるを得ません。何故なら、病気になる前の自分は、無理をし過ぎる自分でした。元の自分に戻ると、また無理をして再度病気になるリスクが非常に高くなります。ですから、元の自分に戻るのではなく、新しい自分になって、以前とは違う考え方・視点・対処法を持てるように、変わらなければなりません。

 

そのためには、周囲と比べたり、元気だった前の自分と比べるのではなく、病気(うつ)になってどん底だった時代と今の自分とを比べましょう。「あの頃に比べれば、ここができるようになった」と、小さな達成感を大切にする=今の自分の頑張りを認めてあげるを毎日繰り返すことがうつ的思考から抜け出るキッカケとなります。小さなことで構わないので「ここが頑張れた」「これができて良かった」と自分に繰り返し言ってあげましょう。嫌なことがあっても、プチ嬉しいを作ることが大切です。

 

StockSnapによるPixabayからの画像(白いセーターを着た女性の写真)

 復職6ヶ月(半年) 

目標その1:自分を振り返る時間を作る

目標その2:服薬や通院を続ける

 

復職して半年過ぎると、少しずつ任される仕事範囲が広がっていくことでしょう。早い人はボチボチ通常の仕事を任されるようになるかもしれません。すると、ついつい頑張りすぎて無理をしてしまう場合も。ということで、半年過ぎた辺りで、自分自身を振り返る時間を作りましょう。例えば、心身の具合はどうか、不安がないか、億劫感が強くないか、仕事をためこんでいないか、自分を精神的に追い込んでいないか、困った時は周囲に相談できているか、等々。

 

また、この時期に調子を崩すと「せっかく良くなってきていたのに」とひどく落ち込みやすくなります。以前であれば、調子が悪いことが普通だったため多少の波は流せていたのですが、なまじ調子が良い時が出てくるようになると、調子の悪い波にビックリしてしまうのです。ですが、そこまでガッカリする必要はありません。再度今の自分の身の丈にあった仕事の量に調整し、仕事のやり方を整えていけばいいだけです。この再調整ができるよう、自分をみつめなおしたり、周囲の人に相談できるかどうかが、長期的に見た復職の成否を決めることに繋がります。

 

あと、復職あるあるの話ですが、周囲が「何の薬を飲んでいるの?」「通院はいつまで?」と悪気なく聞いてくることがあるかと思います。この質問をキッカケに「薬を早く飲まなくなりたい」と自己判断で薬を減らしたり、「薬なんて飲んでも飲まなくても変わらないし」と薬を飲まなくなったり、急に通院しなくなる方も。

 

実は、薬は今日飲まなくても、少し前に飲んだ分の薬が効いています。そのため、多少、薬を抜いたぐらいでは、すぐに調子は悪くはなりません。しかし、あなたの調子を下支えしていた薬の効果が薄くなる時と、仕事のストレスが重なった時に、再発のリスクが非常に高くなります。転ばぬ先の杖ということで、服薬や通院を続けていきましょう。もし忙しくて通院を忘れてしまったら、気まずいかもしれませんが、すぐに予約をして再通院しましょう。

 

AlexaによるPixabayからの画像(白いセーターを着たくまの写真)

 復職12ヶ月(1年) 

目標その1:1年頑張れた自分をホメると共に、気を引き締める

目標その2:細く長く働くために、できることを考える

 

専門家の中では、本当の意味での復職は1年後と言われています。1年勤めあげた自分を、しっかりホメてあげましょう。このように、1年乗り越えたことは大変嬉しい出来事ですが、「もう大丈夫だ」と油断した時が大いに危険です。定期的に自分を振り返り、発病前と同じパターンに陥らないよう気を引き締めます。

 

 なお、出勤はできるようになったのだけれど、イマイチ感を訴える方もおられます。「こんな自分で、はたして職場に貢献できているのだろうか?」と悩むあなたへ。

まずは『細く長く働く』ことを目標に!そのために今の自分は、何ができるかを考えましょう。その上で、何が原因でイマイチ感が生じているのか冷静に分析することが必要です。これは、もしかしたら、あなたが調子を崩した(=欝になった)根本的な理由かもしれません。1人で解決が難しい時は、第三者の意見をもらったり、セラピーを受ける等、変化を起こすタイミングかもしれません。

 

PexelsによるPixabayからの画像(リンゴの写真)

 復職18ヶ月(1年半) 

目標:体調管理を心がけながら働く

 

復職1年半経つと、たまに波はあるかもしれませんが、体調は落ち着き、ある程度の仕事ができるようになってきているでしょう。主治医の先生から「通院は卒業」と言われる方も出てきます(←ただし、この辺はあくまでも目安。言うまでもないことですが、卒業は、あなたの回復具合と主治医の先生の治療方針によります。服薬や通院継続、経過観察を言われた場合には、その指示にきちんと従いましょう)。ただし、通院は終わっても、無理がきく身体に戻った訳ではないので、体調管理を心がけながら働きましょう。

1195798によるPixabayからの画像(リンゴの花の写真)

 復職3年 

目標:病気だった自分にアドバイスを

 

復職3年経つと、病気だったこと自体が過去になっているかもしれません。こころの病気(鬱)になって立ち止まった経験は本当に辛かったろうと思います。ですが、そこから得た経験はあなた自身を大きくしてくれるものだったろうと思います。ということで、質問。

 

病気だった自分に、今のあなたであれば、どんな声かけができるでしょうか?

 

どうぞ過去のあなたに温かいアドバイスを送ってあげて下さい。「肩の力を抜いていいよ」「自分を傷つける人の意見を聞く必要はないよ」「自分を責めなくていいよ」等々。人によっては、自分にチョッピリ辛辣な意見を伝える必要があるかもしれません。その際は、愛のある苦言をどうぞ。

 

そうやって過去の自分にアドバイスをすることができるということは、あなたが過去の辛い経験を乗り越えられたということです。どうぞ自分に自信をもって、生きていきましょう。